隠し扉の奥の曲がりくねった通路を抜け、秘密の螺旋階段を下り。
私たちは分厚い扉の前に立っていた。
私が持っているのは、小さなハンドバッグのみ。
老人は、左手で杖をつき、右手には不似合いな紙袋を下げている。
使用人たちにも、ここに足を踏み入れる事は許していないのだろう。薄暗い通路は、空気を淀ませ、ひっそりと静まり返っている。
扉の脇のシステムに老人が暗証番号を打ち込み、1枚目の扉を開けた。
小部屋の中へ入り、ドアにしっかりとロックがかかったのを確認してから、反対側、奥の扉に向かう。
今入ってきた扉に施錠してからでないと、奥の扉の開錠は出来ない仕組みだ。
防犯というよりも、中にいる「彼女」を絶対に外に出さないための配慮なのだろう。
私は、ぞくぞくとした興奮を身の内に覚えていた。
――【倶楽部】の中でも極めつけの好事家として名高い老人。
これまで彼が手に入れ、世話をしてきた動物(ペット)は、ライオンなどの大型哺乳類から蛇やイグアナなどの爬虫類、インコなどの鳥類、希少な昆虫や熱帯魚にいたるまで、実に多岐に渡る。
さらに、彼が動物たちに向き合うその姿勢は、単に希少・高価な動物だけを珍重しアクセサリーとして見せびらかすだけの成金コレクターの類とは、完全に一線を画していた。
それが琴線に触れさえすれば――それこそ痩せこけた雑種の野良犬だろうが、窓から飛び込んで来たカブトムシだろうが――彼は分け隔てなく、惜しみない愛情を注いだ。
また彼は、可能な限り動物たちの世話は手ずから行い、決して使用人任せのまま放置したりはしなかった。
適切な世話をするためとあらば自ら進んで専門家や獣医に教えを請い、必要な知識と技術を身につける努力をも厭わなかった。
逆に、彼は、自分が責任を持って世話する自信が持てない動物については、決して手を出そうとはしなかった。
彼が善人かどうかは別にして――その、動物に対する愛情と献身ぶりに関してだけは、私はこの老人に、同好の士としての紛れもない尊敬の念を抱き続けていたのである。
その彼が「究極の宝」「この世で最も美しい生き物」と賛美する愛玩動物――それを、初めて目にする栄誉にあずかる事ができるのだ。
私が期待と興奮に震えたのも、無理はないだろう。